天使の足跡






バイトが終わった9時過ぎに、空腹の音を聞いた。

このまま帰って仕度をするのは面倒だったから、コンビニで軽い夕食を買うことにした。



自動ドアが開くと、真っすぐ惣菜の棚に向かい、ひんやりした空気に並んだ弁当を眺めた。

後から来た中年の男性は何も考えずに弁当を手に取り、ついでに缶ビールも掴んで、先にいた僕より早くレジに並んだ。


それを気にしながら、適当に買うものを決めようとする。

僕って、優柔不断だ。
時々そう思う。


まさに手を伸ばしたところに、もう一つの手が見えた。

そして、同時に一つの物に手を掛ける。

僕は、すぐに隣を見た。



(──やっぱり)



僕の目にオオタの顔が映った。

オオタもこっちを見ていた。



僕は何かを言おうとして口を開いたが、上手くまとまって出てこない。

そうするうちに彼女は、違う物を手にしてレジに向かっていく。


僕も適当に弁当を持って、慌てて追いかけた。


先にコンビニを出た彼女にようやく追いついて、背中に声を投げた。


「待てよ!」


僕の声に振り返る彼女。


「……なに?」


「今日もバイト?」


「……はい」


オオタは目を伏せていた。


瞳に街灯が差しこんで、一層、冷ややかな雰囲気を醸し出す。


「用がないなら、構わないで下さい」


冷たく言い放ち、自らの起こす風に髪をなびかせて歩き出した。
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