天使の足跡
3
バイトが終わった9時過ぎに、空腹の音を聞いた。
このまま帰って仕度をするのは面倒だったから、コンビニで軽い夕食を買うことにした。
自動ドアが開くと、真っすぐ惣菜の棚に向かい、ひんやりした空気に並んだ弁当を眺めた。
後から来た中年の男性は何も考えずに弁当を手に取り、ついでに缶ビールも掴んで、先にいた僕より早くレジに並んだ。
それを気にしながら、適当に買うものを決めようとする。
僕って、優柔不断だ。
時々そう思う。
まさに手を伸ばしたところに、もう一つの手が見えた。
そして、同時に一つの物に手を掛ける。
僕は、すぐに隣を見た。
(──やっぱり)
僕の目にオオタの顔が映った。
オオタもこっちを見ていた。
僕は何かを言おうとして口を開いたが、上手くまとまって出てこない。
そうするうちに彼女は、違う物を手にしてレジに向かっていく。
僕も適当に弁当を持って、慌てて追いかけた。
先にコンビニを出た彼女にようやく追いついて、背中に声を投げた。
「待てよ!」
僕の声に振り返る彼女。
「……なに?」
「今日もバイト?」
「……はい」
オオタは目を伏せていた。
瞳に街灯が差しこんで、一層、冷ややかな雰囲気を醸し出す。
「用がないなら、構わないで下さい」
冷たく言い放ち、自らの起こす風に髪をなびかせて歩き出した。