天使の足跡
第2章:同居
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「いいんですか? 本当に」
「うん。でも、悪いけどタダじゃないよ。実は今月ピンチなんだ」
「それくらい自分で何とかします」
鍵を開けて部屋に入る。
開けっ放しになったブラインドを閉めて、照明のスイッチを入れた。
今朝の食器が洗われていないまま放置してあり、ベッドの上は脱ぎ捨てた部屋着と、ぐちゃぐちゃになった毛布とで、だらしない状態になっていた。
僕はそれを、ささっと寄せたり重ねたりしながら彼に言った。
「ごめん、ちょっと待ってて。片付けるから」
オオタは部屋の隅に荷物を降ろした。
そして辺りを見回し、机の上の写真立てを見る。
それは、スーツを着た父と、綺麗な服を着た母。
そして西高の制服姿の僕。
何が不満だったのか、僕だけはムスッと口を閉じて笑いもしていない。
──この部屋にただ1枚の、家族写真だった。
オオタは、写真の僕を指差した。
「槍沢くんの家族ですか?」
「うん。ここの高校に入学が決まった時に撮ったんだ」
「お父さん、何の仕事してるんですか?」
「警官だけど。どうして?」
「何か優しそうだったから」
「頼りないだけだよ」
僕は皮肉っぽくぼやいた。
「槍沢くんって、どこから来たんですか? わざわざ一人暮らしなんて、この辺の人じゃないでしょ?」
「ここよりも北の方。……今、田舎者だなと思った?」
僕が苦笑して答えたら、オオタは口角を少しだけ上げて首を振る。
「そんなことないですけど」