天使の足跡






後に風呂に入っていた太田が出てきた時には、23時を過ぎていた。


彼は首にかけたタオルで髪を拭きながら、ベッドに座ってテレビを見ている僕の隣に座った。

僕はお笑い番組を見て腹がよじれるほど笑い、涙の滲んだ目で、何気なく太田を振り返る。


太田も一緒になってテレビを見ている。

だけど、太田は爆笑しない。

あくまでも、微笑。


本当に面白くないのか、それとも笑うのが下手なだけなのか。


「面白くないの?」

「面白いです」

「変な奴ー」


と僕が笑うのに対して、彼は「なぜ笑っているのかわからない」という顔をする。

笑うこと以外の表情は得意なようだ。


「──こんなこと言ったら殴られるかな。
……実は、初めて太田を見た時、本当に女の子だと思ってた。女の子にしては骨張ってるなあとは思ってたけどさ」

「失礼だなあ、槍沢くんより背高いですよ」


確かに本当らしい。


僕はジャスト169だから、
自称169.5の彼が言うことはもっともだ。

それでも、遠目にみたら女子に見えてしまうのは、やはりこの容姿のせいなのか。

そうとらえれば田中が『あの子』と呼びたがるのも、強ち分からなくもない。女子っぽいからだと思う。


田中をはじめ、噂をする者たちは、太田が男子だと知っている。

けれど、何も知らずに僕のように勘違いする奴も少なくないと田中に聞いた時は、素直に納得してしまった。


髪を切ったら、男振りがよくなるかもしれないのに。

もったいないなと思う。




……ところで。


太田は今の仕事に、何も感じていないのだろうか……。
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