天使の足跡
「なに?」
太田の横顔に見とれていたら、怪訝そうに声をかけられた。
また、冷静な瞳がこちらに向けられている。
その目で全てを見透かされているようで、時折怖いとさえ感じた。
「あ、いや、その……」
口を濁していると、彼はまたテレビに視線を注ぎながら、タオルでわしゃわしゃ髪を拭く。
「ねえ……バイト、やめたいんだろ?」
勇気をだして尋ねると、手を休めて横目に僕を見る。
「はい」
「汚いとか思わないの?」
「汚い……? 時と場合によりますけど」
「僕がとやかく言うことじゃないけど、よくないと思うよ。親に心配掛けるし、危ないし……。
噂を信じるわけじゃないけど──だから……悪い奴らと絡んでいるならやめた方がいいし──それに──」
呼吸を整え、思い切って言う。
「やめた方がいいよ、カツアゲとか……!」
「えっ!?」
彼は慌てて向き直った。
顔を下げていても、視線が当たるのを感じる。
ようやく顔を上げると、ポカンと口を開いていた彼。
僕は数回瞬いて、恐る恐る言葉を吐き出す。
「……間違ってる……?」
「……いや……槍沢くんの言うことは正しいです。カツアゲは良くないですね。でもちょっと違ってるっていうか……カツアゲって……したことないんですけど?」
『片っぱしから金巻き上げてるって噂も──』
田中の言葉が、脳裏にちらつく。
「え? あ、いや……だって……噂、やっぱり気になってたし……」
撃沈。
一瞬にして、空気が白ける。
テレビの中で起こった笑いは、まるで僕らに向けられているかのようだ。