天使の足跡
5
夕方。
僕はバイトに行く準備をし、東西に爪先を向けて転がったスニーカーを足で揃える。
踵(かかと)を入れながら、ベッドに座っている太田を顧みた。
雑誌を読んでいる。
「行ってくる」
開いたドアが閉まる前に、「いってらっしゃい」という陽気な返事が聞こえた。
彼は今日、部活もバイトもないらしい。
* * * * * *
今日の分も無事に終了して、僕は裏で一息入れているおばさんたちに挨拶をした。
休憩室には長テーブルとロッカー、事務机、高く積み重なった段ボール箱が、狭そうに詰まっている。
長テーブルには、大野が、座っていた。
「お疲れ」
「お疲れ! なあ、そろそろ定期だよな? そっちのクラスってさ、数学どこまで進んでんの?」
僕がロッカー前に立った途端、一緒にバイトしている大野が言った。
僕は冷汗をかく。
テストのこと、すっかり忘れてた。
「そうだっけ!?」
座っていたパイプ椅子が倒れそうになるくらい、大野はのけぞって笑っていた。
「その様子じゃ、『全然勉強してない!』だな」
「あーあ、今から焦ったって仕方ないのに……もう遅いよ」
「遅くないって! 諦めんなよ! 頑張ろうぜ!」
笑顔で励まされたが、全く頑張れる気がしない。
なぜなら。
「去年同じクラスだった時もそう言ってくれた気がする。でも結局、二人とも赤点だったよな……」
どんなに頑張ったって、頑張り方にはいろいろある。
要領のいい奴ならコツコツ頑張るだろうけど、僕はコツコツ型じゃない。
残念ながら僕は、「当てずっぽう」でがむしゃらに頑張ってしまう奴なのだ。