天使の足跡





夕方。

僕はバイトに行く準備をし、東西に爪先を向けて転がったスニーカーを足で揃える。

踵(かかと)を入れながら、ベッドに座っている太田を顧みた。

雑誌を読んでいる。


「行ってくる」


開いたドアが閉まる前に、「いってらっしゃい」という陽気な返事が聞こえた。

彼は今日、部活もバイトもないらしい。




 * * * * * *




今日の分も無事に終了して、僕は裏で一息入れているおばさんたちに挨拶をした。

休憩室には長テーブルとロッカー、事務机、高く積み重なった段ボール箱が、狭そうに詰まっている。


長テーブルには、大野が、座っていた。


「お疲れ」

「お疲れ! なあ、そろそろ定期だよな? そっちのクラスってさ、数学どこまで進んでんの?」


僕がロッカー前に立った途端、一緒にバイトしている大野が言った。


僕は冷汗をかく。


テストのこと、すっかり忘れてた。


「そうだっけ!?」


座っていたパイプ椅子が倒れそうになるくらい、大野はのけぞって笑っていた。


「その様子じゃ、『全然勉強してない!』だな」

「あーあ、今から焦ったって仕方ないのに……もう遅いよ」

「遅くないって! 諦めんなよ! 頑張ろうぜ!」


笑顔で励まされたが、全く頑張れる気がしない。


なぜなら。


「去年同じクラスだった時もそう言ってくれた気がする。でも結局、二人とも赤点だったよな……」


どんなに頑張ったって、頑張り方にはいろいろある。

要領のいい奴ならコツコツ頑張るだろうけど、僕はコツコツ型じゃない。


残念ながら僕は、「当てずっぽう」でがむしゃらに頑張ってしまう奴なのだ。

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