天使の足跡
また次の日の夕方。
僕は寄り道もせずに帰ってきて、机の上にテキストとノートを広げた。
テストが近いため、バイトも校則で固く禁じられている。
大野は気にせずバイトを続けていたが、僕はしなかった。
これ以上成績を落とそうものなら、ここにいられなくなりそうだと思ったからだ。
勉強を始めてから、2時間経っただろうか。
玄関のドアノブがガチャガチャ鳴って、靴の音が響く。
「お帰り」
「ただいま。槍沢くん、もう帰ってたの?」
その言葉に続けて、
「バイトは?」
と尋ねてくる。
太田が見上げた時計は、午後7時を指していた。
「もうすぐテストだから。太田はテストじゃないの?」
「うん、明日」
「明日!? 勉強しなくていいの? ……あーそっか、頭良いんだった」
「そういうわけじゃ……」
「暇なら、後でその頭貸してよ」
僕は南高生の彼を羨みつつ、テキストのページをめくる。
勉強は僕にとって退屈極まりないものだった。
「勉強」という名目で机に向かった時、多くの時間と気力を消費するその一方で、雑念が多い僕には割に合うとは言い難かった。
いつも机の上の物が気になったり、読みかけの雑誌に気が取られたりしてしまう。
残念なくらい、集中力がないのだ。
結局、30分も経たないうちに太田の手を借りることになってしまったのである。
「あーもう無理。助けてくれー」
彼はベッドから下りると、教科書を覗き込んだ。