天使の足跡
ちょうどその時、太田のポケットから着信音が聞こえてきた。

彼は取り出すなり、よく見もせずに電源を切った。


そういえば、以前にもこんなことがあった。


また家族からだろうか?


僕はよく、こういった些細なことに気を奪われてしまう。
それが悪い癖だとは分かっているのだけれど。


「いいの?」

「どうせ父親だから」


相変わらずの無表情な顔は、いっそポーカーフェースの達人とでも言ってしまおうか。


僕は座ったまま、傍に生えている草を摘み取った。

人の目を見たり、一か所の風景を見ながら話したりすることが苦手だから、時々手近にあるものに頼ってしまう。


「実は僕も、しばらく家に帰ってないんだ」

「え?」

「仲が悪いわけじゃないよ。ただ……罪悪感……っていうのかな、『レベルの高い学校に行きたいんだ!』なんて大ウソ吐いて出てきたから、『勉強はどうだ』とか聞かれると申し訳なくてさ。
小さい頃から親の思うような良い子でいようと思ってきたし、
父さんも母さんも、こんな所で遊ばせるために僕を育てたわけじゃないのに、期待を裏切って……実はウソでした、なんて知ったら、すごく悲しむと思うんだ」


手の中で、雑草が風に揺られていた。

雑草を手放すと、風にさらわれていく。

こうして摘み取られて、ただ風に流されて──最後には海に流されて為す術を失うか、土に帰るか……。


そこら中に生えている雑草は、「人」と同じだ、と思う。


風は「世間」で、人々の中から這い出たこの草は、地面に踏ん張れずにただ風に流されて──


まるで、結局どこへも行けない僕のみたいだ。
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