天使の足跡
斜面を下った彼らが、僕の隣に立つ。


「拓也くんだ! 何してんの?」


そう言いながらも、チラチラと太田の方を見ている。

僕は滅多に友達とこの辺りを歩かないから、不思議に思っているのだろう。


「遊びに来たんだ。こっちは僕の友達。太田くん」

「へぇー。太田くんもサッカーできる?」

「うん、できるよ」

「じゃ、太田くんも今度一緒にサッカーやろうね!」


僕は3人組にサッカーボールを渡す。


「早く練習して来いよ、まだ1回も勝ったことないくせに」


子供たちは草の斜面を駆け上がっていき、道の上に立って、もう一度手を振った。


僕らも手を振り返した。

それからしばらく間を置いて、太田が呟いた。


「子供っていいなあ、何でも簡単に収まるんだから」

「それ、どういう意味?」

「大人も子供も関係ないし、男も女も関係ない。隣の人が『赤』って言っても、一方では『緑』だったり『黄色』だったり。
──でもいつかは、はっきり二つの色に分かれるんだよね」

「いつかって?」

「……いつかはいつか」

「珍しいね、太田がそんな難しいこと言うなんて」


不意に太田は嫌そうな顔を見せる。


「そんなことないと思うけど」


「そうだ、太田の小さかった頃って、どんなだったの? 僕と違って、言いたいこと言える子だった?」


彼は一度僕を見て、だが、すぐに目をそらした。


「まあ、話したくないなら、いいんだけどさ」

「別に隠してるわけじゃ……本当に普通だったよ。でも、ただ──」


太田は改めて膝を抱え直すと、僕を見た。


僕は一瞬、その黒い瞳に吸い込まれるような、恐ろしい感覚に捕われて、目が離れなくなった。

その時の太田は、まるで怖い出来事を語ろうとするときのような目をしていた。

もしくは、怯えているような。
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