天使の足跡
7
オレンジ色の夕日が、玄関から一瞬入り込む。
全体的にオレンジに染まった部屋を見渡し、余計な荷物を置いてから、太田は再び玄関へと歩いていく。
靴を潰して履きながら、呟いた。
「買出し行ってくるね」
「うん」
バタンと、鈍い音をたててドアが閉まる。
そうしたら部屋は恐ろしく静まり返っていたことに気が付き、落ち着かない感じがした。
それを、テレビの音で紛らわす。
しばらくの間はそうしていたけれど、とうとう飽きて郵便物を取りに行く。
ドアの郵便受けから取った物をテーブル上に投げ置くと、同時に聞こえた着信音。
投げ置いたばかりの郵便物をよせる。
姿を現したのは、僕の携帯電話だ。
──両親からかもしれない。
恐る恐る耳に押し当てる。
「……久しぶり」
『元気にしてたの? 拓也、ちょっと声荒れてるんじゃない?』
久しぶりに聞いた母の声は、相変わらず忙しそうな声をしていた。
毎日、家事で忙しくて喋り方まで癖になっているみたいだった。
僕の声を気遣ってくれていたのに、やっぱり素直になれなくて、それに対しての返事はしなかった。
「それで、どうしたの?」
『今年の夏休み、帰ってこれそう?』
声の調子からして、僕のいい返事を期待しているようだった。
──母は何も知らない。
僕の言いたいことを、分かってはいないだろう。
当たり前と言えば当たり前。
だけど、太田の話を聞いて少しだけ考え方が変わった。
僕が音楽の道に進みたいと言えば、絶対に批判するはずだ。
でもそれは、きっと僕を試したいから批判を重ねているんだ。
「どうせすぐに諦めるだろう」と思っているなら、止めたりしない。
太田は、例外がある、と言ったけれど、僕の両親がそれに含まれていないことを祈ろう。