天使の足跡






オレンジ色の夕日が、玄関から一瞬入り込む。


全体的にオレンジに染まった部屋を見渡し、余計な荷物を置いてから、太田は再び玄関へと歩いていく。


靴を潰して履きながら、呟いた。


「買出し行ってくるね」

「うん」


バタンと、鈍い音をたててドアが閉まる。

そうしたら部屋は恐ろしく静まり返っていたことに気が付き、落ち着かない感じがした。

それを、テレビの音で紛らわす。


しばらくの間はそうしていたけれど、とうとう飽きて郵便物を取りに行く。

ドアの郵便受けから取った物をテーブル上に投げ置くと、同時に聞こえた着信音。


投げ置いたばかりの郵便物をよせる。

姿を現したのは、僕の携帯電話だ。



──両親からかもしれない。



恐る恐る耳に押し当てる。


「……久しぶり」

『元気にしてたの? 拓也、ちょっと声荒れてるんじゃない?』


久しぶりに聞いた母の声は、相変わらず忙しそうな声をしていた。

毎日、家事で忙しくて喋り方まで癖になっているみたいだった。


僕の声を気遣ってくれていたのに、やっぱり素直になれなくて、それに対しての返事はしなかった。


「それで、どうしたの?」

『今年の夏休み、帰ってこれそう?』


声の調子からして、僕のいい返事を期待しているようだった。


──母は何も知らない。
僕の言いたいことを、分かってはいないだろう。

当たり前と言えば当たり前。

だけど、太田の話を聞いて少しだけ考え方が変わった。


僕が音楽の道に進みたいと言えば、絶対に批判するはずだ。

でもそれは、きっと僕を試したいから批判を重ねているんだ。

「どうせすぐに諦めるだろう」と思っているなら、止めたりしない。

太田は、例外がある、と言ったけれど、僕の両親がそれに含まれていないことを祈ろう。
< 41 / 152 >

この作品をシェア

pagetop