天使の足跡
「……ごめん、まだ帰れない。やりたいことが、まだいっぱいあるから」
『バイトのこと? ……自分の事は自分でしなさいって言ったけど、そんなに根詰めなくても良いのよ? 体壊したら意味無いでしょ?』
「うん、分かってるよ、大丈夫だって。次の休みは……きっと帰るから、その時色々話すよ」
だから、まだ家には帰らない。
次に帰る時には、ちゃんとした
『解った』
を言わせるまで、言いたいことを言い切りたいから。
『そう。それじゃあ、冬休みは考えておいてね』
「うん、じゃあね」
僕は携帯電話をテーブルに置いた。
小さな決意をたぎらせての話が終わって、ふっと力が抜けたようにベッドに腰かける。
何気なくテーブルを見た時、たまった郵便物の中から通知表の封筒を見つけ、開封してみた。
──結果。
太田に勉強を手伝ってもらったおかげで、高校生活初のB判定。
「ふふ……!」
ベッドに仰向けになってしばらくそれを見つめ、一人でにんまりと笑っていた。
この興奮ときたら、まったく抑えようもない。
自分でも信じられないくらい嬉しすぎる。
そこに太田が帰ってくると、呆れたように僕を見て、
「変なの」
と呟きながら、冷蔵庫を開けた。
食品を保存している彼に声を飛ばす。
「うるさいなあ、こっちは真面目に喜んでるんだから。そういう太田こそ、そろそろ通知表、届いてるんじゃない?」
言った途端、彼は青くなって玄関へと駆けていく。
「そうだった! 後はよろしく!」