天使の足跡
第3章:PARADOX






鍵がねじ込まれる音がした。


ドアが開くと、真っ暗な玄関に夕日が差し込んだのは一瞬で、閉まるとまた暗闇が広がった。


壁に手を這わせ、手探りでスイッチを押すと、柔らかな明かりが玄関を照らした。


癒威は、郵便受けから通知表を取り、それを持って部屋の奥に進む。


窓を開けて淀んだ空気を入れ替え、しばらく部屋の掃除や片付けをし、机の上を整理して再び窓を閉めた。


それから外に出ると、ごく低い所に太陽がたたずんでいた。

東の空から闇と、いくらかの星が太陽を追ってきている。


階段を下りて道路に出ようとしたところ、視界に入りこんだ人影に驚き顔をあげた。


スーツに身を包み、白髪も少々交じった、50代の男。


「癒威」


5メートルの距離にいる男を見て、いわれのない不快感が込み上げた。


「父さん……──ごめん」


癒威が横を通り過ぎようとするのを見計らったように声をかける。


「どこに行くんだ」

「友達の家」


答えながら、父の横を走り抜ける。


「母さんが心配してるぞ」


その言葉が足枷になって、立ち止まる。

背中に、尖った視線を感じた。


「連絡もしないで、家にも顔を見せないで、心配するのも当たり前だ。強がっていないで、いい加減に現実を見ろ」


その言葉に、癒威は目を剥いた。


「『現実』って?」
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