天使の足跡
自分の肩越しに父を振り返ると、眉を曇らせている父の顔が見えた。
「父さん……一度でも僕の気持ち、聞いてくれたことあった?」
父親の眉間に皺が寄った。
父の前では、自分のことを『僕』と呼ぶ。
そうしろ、と言われてきたままに。
今だって、どうせ自分の将来を心配しているような口ぶりで、
結局は兄と同じレールを走らせるつもりなのに。
「自分のことは、自分で決める!」
吐き捨てるように言って、駅への道を走り出した。
「待て、癒威!!」
背中に声を受けながら、全力でその場から離れていく。
息を切らせながら拓也のアパートに帰ると、何となく疲れて、どさりとテレビの前に座った。
キッチンからそれを見ていた拓也が、そっと声をかけた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん、平気……」
我に返って笑顔を見せるが、拓也には通用しなかった。
彼は他人のちょっとした動作に敏感で、変わったことがあるとすぐに察知してしまうようだった。
「嫌なことでもあった?」
図星を突いた問い。
それには観念して、ためらいがちに頷くしかなかった。
「父親に、見つかって……」
「ケンカにはならなかったの?」
「逃げてきたから」
そう言ったきり、互いに口を閉じた。
珍しく拓也は詮索して来ない。
テレビの音と、キッチンで皿が擦れ合う音や水流の音だけで、静かな時間が流れた。
「父さん……一度でも僕の気持ち、聞いてくれたことあった?」
父親の眉間に皺が寄った。
父の前では、自分のことを『僕』と呼ぶ。
そうしろ、と言われてきたままに。
今だって、どうせ自分の将来を心配しているような口ぶりで、
結局は兄と同じレールを走らせるつもりなのに。
「自分のことは、自分で決める!」
吐き捨てるように言って、駅への道を走り出した。
「待て、癒威!!」
背中に声を受けながら、全力でその場から離れていく。
息を切らせながら拓也のアパートに帰ると、何となく疲れて、どさりとテレビの前に座った。
キッチンからそれを見ていた拓也が、そっと声をかけた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「うん、平気……」
我に返って笑顔を見せるが、拓也には通用しなかった。
彼は他人のちょっとした動作に敏感で、変わったことがあるとすぐに察知してしまうようだった。
「嫌なことでもあった?」
図星を突いた問い。
それには観念して、ためらいがちに頷くしかなかった。
「父親に、見つかって……」
「ケンカにはならなかったの?」
「逃げてきたから」
そう言ったきり、互いに口を閉じた。
珍しく拓也は詮索して来ない。
テレビの音と、キッチンで皿が擦れ合う音や水流の音だけで、静かな時間が流れた。