天使の足跡






僕は時々、夜中に目が覚めてしまうことがある。

ただ目が覚めるのではなくて、誰かに揺すり起こされるように、はっとなって目覚めるのだ。

これは僕の勝手な考えなのだけれど、夜中にふと目が覚める時というのは、
第六感が些細な不安や危機感などを察知して知らせてくれているのではないかと思う。


それは地震であったり、何か事件が起こる前触れだったり。

もしくは誰かが危篤だとか、簡単に言えば『直感』的なもの。

だけど根拠や証拠は一切ない。

なにしろ僕自身、それが当たったことは一度もない。



僕は寝返りを打とうとして──しかし、するのを止めた。

背中に、何かが接していたからだ。


首をそっと振り向かせてみると、いつもは背を向けて眠っていた太田の額が、僕の背にピッタリくっついていた。


そう言えば、初めて太田に会った日、彼を寂しげだと思ったのを覚えている。

それは単なる印象ではなかったようだ。

何か悩んでいることがあるのかもしれない……。


僕はもとに戻って、再び瞼を閉じた。

けれども、すぐに目覚めてしまった。


頭の中では1時間。

いや、実際はそれ以上眠っていたはずなのに、全く眠れた気がしない。





ブラインドの隙間から光が差し込んだ。

意識がしっかりしてきて、夜中のことを思い出す。

あの時と同じように首を振り向かせるが、そこに太田の姿はなかった。


部屋の中が、いやに静まり返っている。


……出かけたのかな?
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