天使の足跡






次の日、太田は朝早いうちに部屋を出て行った。


父親が家を離れているらしいので、その間に家に日帰りするらしい。


彼の父親のことは聞いたけれど、僕は母親の話を聞かされたことはなかったし、聞かなかった。


僕自身、あまり両親に関する話をしたくないというのも理由の1つだけれど、正直に言って、僕は父や母という存在を、それほど深く考えたことはなかった。


太田には歳上の兄弟が2人いるらしいのだが、兄も姉も、弟も妹も、僕にはいない。

一人っ子というやつである。


イトコはいるが、母方のイトコは年が5つも離れているし、父方のイトコは同い年だが、女の子なのだ。


僕の父方のイトコは、太田と同じ高校に通っている。

父親の単身赴任に合わせて高校受験をし、田舎に母親を残し、今は父親と二人で生活しているのだ。

優柔不断な僕とは大違いで、彼女は本当にしっかり者だから、歳の差はないのに、親戚たちは僕の方が年下だと思い込んでいた。


しかし、現に彼女は頭が良くて、僕が無理だったその高校を難なく合格しているし、
成績は比べられるし、僕のコンプレックスである。

そんなこともあって、彼女を好ましいと感じていなかった。


でも、そう思っているのはどうやら僕の一方的な見解であるようで、彼女の方はなんの侮蔑もなく、それどころか友好的に接してくれる。


……そんな気高さというか、如才なさというか、彼女の品格が羨ましいとも感じていた。


けれども、ここでいくら彼女を恨んでも仕方がない。


今僕ができることは、両親に文句をつけられないようにせいぜい勉強することだけである。



テーブルの上に、夏休みの課題を上げる。

ペンケースから筆記用具を取り出して、テキストに向かった。
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