天使の足跡
第1章:遭遇
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「じゃあな、槍沢」
「ああ。明日学校で」
元気にあいさつを交わし、アルバイト先のスーパーで僕らは別れた。
この僕、槍沢拓也は、高校2年がまだ始まったばかり。
小遣いを稼ぐために部活をやめて、バイトに励んでいる。
これでも皆が思っているほど、一概に言う根性無しではないと言い切りたい。
だってその金の中には僕の生活費も一部、含まれているのだから。
そう、僕は。
夢のために親元を離れて関東地方に転居して
今は小さなアパートで一人暮しをしているのだ。
僕の夢は、シンガーソングライターになることだ。
田舎からノコノコやって来て、世間知らずもいいところだ……なんて
僕自身、そう思っている。
もちろん親には都合が悪くならないように、口実を作って家を飛び出した。
その嘘をつき通せるのも、高校を卒業するまでなのだけれど。
それからもう、なんの手ごたえもなく1年が経っていた。
電車に乗り、約1時間で小さな駅に着く。
さっきまでと周囲の環境ががらりと変わった。
大きな建物や人込みは見えない。
人々のうるさい話声の霧や車のエンジン音の波は、この駅に降りた瞬間から静まり返る。
僕が今住んでいる県のとある町は、山も見えて、橋の上から目を細めると海も見えた。
それは、僕の田舎とよく似ていた。
歌を極めたいと思っていた僕としては、もっと都会に行きたかったという無念があったけれど。