天使の足跡
第4章:言えない秘密
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夏休みも開けたというのに、夜の暑さはまだまだ健在だ。
ベッドの上で僕は、何か──たぶん枕だったと思う──を足で蹴って、壁側に寄った。
できるだけ太田から離れようとして。
夏にくっついて寝るのは、思った以上に大変だったりする。
この狭くて高温の部屋で寄り添って寝るなんて──。
かと言って床には寝たくないし、バイトだらけの太田を床に寝せるわけにもいかない。
だからこんなバカげた状況に陥っているのである。
「ゔっ」
頬に衝撃が与えられて、僕は呻いた。
困ると言えば、最近になって分かったことなのだが、太田の夏場の寝相は、とびきり悪い。
春は丸くなって寝ていることが多かったけど、夏場は伸びきっているというか何というか……。
今の衝撃も、太田が僕の頬を、手の甲で張ったためである。
僕は仕返しと言ってはなんだが、足で蹴り返した。
──げ。ミゾオチに入ったかもしれない……
やがて彼は小さく呻き、体を縮めた。
マズイと思った僕は、狸寝入りだ。
その朝目覚めた僕は、何事もなかったかのように顔を洗いに行く。
そして洗面所から出てくると、いつもの無表情な顔で、太田が腕を組んで立っていた。
「何か言うことは? 槍沢くん?」
「くん」の部分を強調する。
特に怒っている様子には見えなかったが、無表情で仁王立ちされると、結構怖いものだ。
くいと顎を上げて、見下すような視線で見る。
「昨日、わざと蹴ったでしょ?」
「わざとだなんて人聞きの悪い──」
その突如、風のような速さで拳が跳んできて、目の前で止まる。
その距離、鼻先わずかに3センチ。
僕はごくりと息を呑んだ。
昨日のことが完全に露見している。