天使の足跡
2
体育館を駆けめぐる足は、キュ、キュと高い音を鳴らしていた。
爽やかなテンポで続くドリブルの音も、シュートの時のネットを掠める音も、心地よいほど全身に響き渡る。
様々な角度から投げ入れられるボールは、時々ネットを通るだけで、他はほとんどリングに拒まれていた。
「太田!」
振り向き様に、部員の1人がボールをパスしてきた。
上手くキャッチして、スリーポイントのラインからそれを打つ。
彼の放ったボールは緩やかな弧を描き、見事にネットに歓迎された。
ボールを譲った部員が軽い拍手した。
「練習来てない割に、完璧じゃねーか!」
「まあね」
「お前より真面目に部活やってんのに、またレギュラーの座取られるな」
「自分はサボってばっかりだったから、今度は三谷の番だよ」
「だといいけど」
癒威と三谷は、1年の頃から同じクラスで、いつも親しくしている。
今ではレギュラーの座を争う、仲の良いライバルでもある。
やがて、部員たちがまばらに部室へと引き返し始める。
三谷が時計を見上げた。
「俺らもそろそろ戻ろうぜ、HRに遅れる」
部室に入った瞬間、ガヤガヤ男子生徒の声が充満する。
スプレーの音や、香水や汗の匂い、豪快な笑い声と、ロッカーを開閉する音。
その騒音に混じって、練習着を脱ぎながら三谷が発する。
「お前さぁ、マジで部活来いよな!」
夏服のシャツに袖を通しながら、癒威が言う。
「自分がいない方がやりやすいって喜んでたくせに?」