天使の足跡
そこに行けば全ての夢が叶う訳じゃないけど
最も夢に近い場所だと信じていたから。


それなのにこんな故郷に似た場所に来たのは、地方にいる両親のせめてもの願いだからだ。


始めは2人とも反対していたのに
こうして遠くに出してくれただけで恵まれてるのかもしれない。

だから不平不満は言えなかった。




──とにかく。

僕は帰り道を急いでいた。

一刻も早く家に帰って、楽譜を完成させたいと胸を躍らせて。


その思いはこの足を早く動かして
信号機が点滅している横断歩道をも駆け抜ける──


それがいつもの決まりなのに、今日は少し違った。


走り疲れて少し足を休めた時だ。


ふと、店と店の間の小道でうごめく影が目に飛び込む。


いつもなら気にしないけど、今日はたまたま目をとめてしまった。


それは若い男女。


大人と高校生……くらいに見えた。


少女の方はジャージを着て、運動部が使うようなバッグを斜めに提げている。


その時、あらぬものを見てしまった。


立ち止まっていた僕には、一つの静止画のようにハッキリと見えてしまった。


若い男が胸のポケットから封筒を出し、少女に押しつけた。

封筒の口からひょっこり頭を出したその角は


──おそらく、紙幣だ。
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