天使の足跡
太田を引きとめなかった。
相手を『気遣うこと』が、必ずしも『優しさ』とは限らない。
優しさは人を癒し、心を開くことに通じる。
でも、ちょっとした時が関わったとき、それは人を傷つける『同情』にも姿を変えることができる。
相手のプライドを傷つけ、心を引き裂き、貫き通してきた道をも打ち砕く。
優しさという感情表現ほど難しいものはないかもしれないとさえ、思った。
今の太田は、気遣いを必要としていない。
──そうとも知らずに、僕は……
僕は太田に、謝ってしまった……
「……太田……」
僕は急いで部屋へ引き返し、テーブルの上の携帯電話を引っ掴んだ。
以前、太田と交わした言葉を思い出していた。
『子供っていいなあ、何でも簡単に収まるんだから』
『それ、どういう意味?』
『大人も子供も関係ないし、男も女も関係ない。隣の人が「赤」と言っても、一方では「緑」だったり「黄色」だったり。……でもいつかは、はっきり二つの色に分かれるんだよね』
『いつかって?』
『……いつかはいつか』