天使の足跡






壁にもたれかかる。


小さな駅の、改札口。

そこから外の様子をただ眺めていた。


傍に立てかけている傘の先は、涙でも流すみたいに雨水をポタポタ滴らせている。

ジャージの裾はわずかに雨に濡れ、その部分だけ濃い色をしていた。



目の前を過ぎていく人の群れは、彼の目に様々な色の光芒を残していった。

髪や肌の色、瞳の色、服の色、体格、老人、中年、若者……。


けれど、目に映る本当の色は二色だけ。


男性、女性──


彼らはどちらかの色の上に、多くの色で「個性」という外観を塗り固めている。


(人間にもいろんな色があったらいいのに……)


電車がホームに滑り込む音を聞いた。

ちょうどその時、ポケットの中で携帯電話が震えだす。

取り出して見れば、画面に表示されていたのは「拓也」の名前。

しばらく応答を躊躇したのち、渋々ディスプレイを操作し、そして耳に当てた。


『……太田? 僕。……拓也』

「知ってる」


いつものように、そっけなく返す。


『今、どこ?』

「駅。……もう電車が来たから、行かないと」

『待って! 僕の話も、聞いてほしいんだ』



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