天使の足跡
5
壁にもたれかかる。
小さな駅の、改札口。
そこから外の様子をただ眺めていた。
傍に立てかけている傘の先は、涙でも流すみたいに雨水をポタポタ滴らせている。
ジャージの裾はわずかに雨に濡れ、その部分だけ濃い色をしていた。
目の前を過ぎていく人の群れは、彼の目に様々な色の光芒を残していった。
髪や肌の色、瞳の色、服の色、体格、老人、中年、若者……。
けれど、目に映る本当の色は二色だけ。
男性、女性──
彼らはどちらかの色の上に、多くの色で「個性」という外観を塗り固めている。
(人間にもいろんな色があったらいいのに……)
電車がホームに滑り込む音を聞いた。
ちょうどその時、ポケットの中で携帯電話が震えだす。
取り出して見れば、画面に表示されていたのは「拓也」の名前。
しばらく応答を躊躇したのち、渋々ディスプレイを操作し、そして耳に当てた。
『……太田? 僕。……拓也』
「知ってる」
いつものように、そっけなく返す。
『今、どこ?』
「駅。……もう電車が来たから、行かないと」
『待って! 僕の話も、聞いてほしいんだ』