天使の足跡
「でも、僕は楽しかった。僕の歌を聴いてくれて、僕の曲を聴きたいって言ってくれて……お世辞でも、本当に嬉しかった。
だから、あの曲を完成させる決心がついた」


耳に届いてくるのは周りの雑音だけで、太田の声は聞こえない。


聞いてくれているかどうかも知らない。


それでも僕は話し続けた。


「……僕の今の気持ち、解ってくれなくてもいいよ。
でも、太田に出会った時に話したこと、嘘は一つもないから」



(僕には君が、何をしてるかなんてわからないよ。でも──でも、信じるか信じないかは自由……だと、思う……)





 * * * * * *





──癒威の脳裏を廻る、あの日の拓也の言葉。

まるですぐ耳元で聞こえてくるように、鮮明に蘇る。


それを振り払うつもりで、電車に駆け込んだ。


すぐにドアが閉まる。


ただ電車に駆け込んだだけなのに、呼吸が苦しい。
胸に何かが詰まったみたいだ。

唇をかみしめる。

泣きそうになる顔を俯かせ、携帯電話を掴んだままドアにもたれる。


『どんな秘密があったって、太田は友達だ! こんな些細な理由で離れるような友達なら、友達って言えない。
だけど、少なくとも僕は、太田を友達だと思ってる!
これからも、それはずっと変わらない──変わらないから──!』

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