天使の足跡
そう叫ばれた友情は、しっかりこの胸に届いていた。


「──もう叫ばないで……」




──涙が止まらなくなるから──……





世界が滲んで、何も見えなくなった。

勝手な涙は、瞬きせずとも頬を伝って落ちていく。

涙が零れ落ちないように上を向いて、携帯電話を耳から離した。


とうとう電車が動き出す。


拓也はカンがいいから、これ以上話を聞いていたら涙を悟られてしまうかもしれない。

そう思って通話を切ったけれど、それでも涙は次々に押し寄せて止まらなかった。


拭っても、それは手の甲を濡らしたに過ぎない。
すすり泣きを必死に抑えようとしても、呼吸はただ苦しがるばかりで……。


(──もしかしたら、気付かれたかな……
悲しいんじゃない。
拓也くんの気持ちが、嬉しかったから──……)




 * * * * * *




僕は携帯電話をそっと下ろした。


太田は最後まで何も言わなかった。

それは、僕に対して言うことは何もないということだったのだろうか……。


ブラインドを指で少しだけ開けて、雨水が滑り落ちる窓の向こうを見た。


(出会ったのも、ちょうどこんな雨の日だったっけ……)

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