天使の足跡
少女はその封筒を一度は相手に押し返すが、
また押し戻されて不快な顔をする。

彼らは神妙な顔つきで何やら話していたけど、内容までは聞こえない。


僕は犯罪の現場を見てしまったような気分になり、目眩がした。



二人が離れると、男が小道から出てくる。



僕は見て見ぬ振りをして、男が通り過ぎていくのを待った。


そしてもう一度。彼女の方を見ると。


……運のないことに、バッチリ目が合ってしまった。


僕はここまで来た時よりも早く、その場から走り去っていく。


胸がドクドクと鳴り止まない。


そのまま振り向かずに、赤信号の横断歩道を走り抜けた。




さっきの現場からは、だいぶ遠ざかったと思う。

しばらく走り続けたせいで、100m走をした後みたいに跳ね上がった息。

それを整えるため、徐々にスピードを落として歩いた。


突然、鼻先にポツリと水気を感じた。

見上げれば、にわかに泣き出した空。

天気予報が外れたらしい。


その雨はやがて土砂ぶりになっていく。


傘なんて無かったので、シャッターを下ろした店の屋根の下で、雨が上がるのを待った。


雨がいつ上がるのか、本当に上がるのかさえ分からない。

この土砂振りがすぐに終わるなんてことは考え難かった。

もしこのまま雨が上がらなくても、少し休んだらすぐにまた走って帰ろう。

少なくとも、その時点でそう考えていた。



けれども、脆くもその考えは崩れ去った。



とある人物がやって来たからだ。

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