天使の足跡
2
帰りのホームルームが終わった教室は、いつも騒々しかった。
その教室に入ってきたのは、クラスは違うがバイトで一緒の大野だ。
「槍沢」
真っ直ぐにやってきて、僕の机の前に立つ。
「今日はバイト、来るのか?」
僕は一瞥しただけで、すぐに窓の方へ視線を逸らした。
僕はまだ、大野を恨んでいる。
大野が誰かに僕と太田のことを話してくれたせいで、田中にまで噂が伝わってしまった。
それに加えて、本当のことを言えなかった自分自身も恨んでいた。
「お前に、話したいことあってさ」
そう言い淀む彼の声を遮るために、僕は思い切り立ち上がった。
さっきまでの騒々しい教室が一瞬にして静まり返る。
いつも大人しく生活している僕だから、周りも不審に思ったのだろう。
黙って教室を出ていく僕の後を大野が追ってきた。
「槍沢!」
僕は完全に無視していた。
ところが、長い廊下の途中で肩を掴まれる。
「槍沢! ごめん」
「ごめん? 何が?」
苛立ちをあらわにした表情をする僕。
大野が手を放す。
床を睨んでいる僕に大野は言った。