天使の足跡
途端にパッと肩を放して、癒威の前に立ちはだかる。
「はっ!? 嘘だろ!? あの話マジか!?」
部室に戻ってからも三谷の不満は続いた。
「お前ありえない。マジでやめんのか?」
「うん」
「おいおいおい! 冗談キツイって!! 分かった、もう恨まないから引退まで続けろよ。俺じゃさすがに重荷すぎる!」
焦って頭を掻く彼の横で、癒威は得意げに笑った。
「じゃあ考えとく。その代わりに明日の昼メシおごってね?」
着替えを済ませた癒威は、他の部員たちに混ざって部屋を出ていく。
その背中に、「交換条件かよ! 汚ねぇぞ!」という三谷の愚痴が飛んだ。
傍で見ていた丹葉がロッカーを閉めながら呟いた。
「どーすんの三谷? 明日おごらなくちゃ本当にやめられちゃうかもよ?」
「あーくそっ! しょーがねーなぁ! おごってやるかぁ!」
「太田もやるな。『貧血だから長時間走れない』とか言ってる割に、短期戦なら俺らより強いしさ。正直、体力無いし、ヒョロッとして女子みたいな奴だと思ってたけど」
その言葉に、すっと三谷の顔から表情が消え失せた。
丹葉を見つめたまま、動きが止まってしまっている。
丹葉は苦笑した。
「ごめん、三谷が下手だって意味じゃない」
丹葉は三谷に気を遣っていたが、三谷には聞こえていなかった。
今、頭にあるのは太田のことだ。