天使の足跡






『タク? 今、忙しい?』


加奈から連絡があったのは、バイト先の休憩室にいた時だ。


「全然。どうしたの?」


加奈はしばらく間をいてから、『ごめんね』と呟いた。


「何のこと?」

『タクと太田くんのこと……太田くんに話しちゃった』

「えっ、太田はなんて?」

『何も。本当にごめんね、ついタクの名前が出ちゃって』

「い、いいよ、そんなこと……僕も最近、太田の気に障るようなことしちゃったから」

『気に障ること?』

「あ、いや、たいしたことじゃ……。それより太田は何か言ってなかった? まともに話してないから、本当はまだ怒ってるんじゃないかと思って」

『そんなに怒ったようには見えなかったけど……私に言えないくらい、酷い事したの?』


加奈は冗談めいて言っているが、僕は額を軽く押さえた。

確かに悪いことだと思ったから、懺悔したい気持ちだ。


「そう、加奈にも言えないくらい」

『もー、クヨクヨ悩むのやめたら? 男らしくないんだから』
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