天使の足跡
「そういうこと言うなよ、余計に落ち込むだろ。
とにかく、問題ないならそれでいいや。そろそろ時間だから、切るね」
携帯電話をポケットに滑り込ませた。
顔を上げると、テーブルに座る大野が視界に入る。
いつもより距離を置いて座っているのは今日、学校で僕が怒鳴り散らしたせいかもしれない。
彼の方を見ると、彼は慌てて目を逸らした。
立ち上がって部屋を出て行こうとする僕に、背後から大野の声が追いかけてきた。
「槍沢」
僕は振り返る。
彼は視線を逸らしたままで、小さな声で言った。
「俺、お前の話……信じるから」
それに続けて、さらに小さな声で、
「ごめん」
と言う。
僕はお人好しだから、謝られたりするとすぐ許してしまう。
それが長所なのか短所なのか分からないけれど、自分に正直なこの性格を、今では悪いと思っていない。
「そんなこと、もういいよ」
と、僕は言う。