天使の足跡
5
朝、いつものように校門を潜り抜けた癒威の背後から、可奈が皮靴を鳴らして小走りに駆け寄ってきた。
「おはよう」
「おはよう……どうしたの?」
何か言いたげにしていた彼女の発言を促す。
「あのね、タクが心配してたよ。太田くんに酷い事したって。
男子って女子と違って、そういう事にこだわらないものだと思ってたけど……。すごく沈んでたから、そんなに酷い事したのかなって」
「咲城さんって、槍沢くんのお姉さんみたい」
「よく言われる。タクは嫌みたいだけどね」
ゆっくりと校舎に向かって校庭の道を歩き出す。
「槍沢くんからは、他に何も聞いてない?」
「他に……? ううん」
癒威はどこかの空を見上げて何かを考え、声を小さくして言う。
「前に槍沢くんの部屋に泊まったことがあるんだ。その時に、ちょっと……」
言って、少し間を置いた。
「秘密にしてたことを知られちゃって……でも、本当に謝らなくちゃいけないのは、自分の方なのに……」
「秘密? どんな?」