紙吹雪
視線すらもはずすことが出来ず、歳三は金縛りにでもあったかのように、ただただその少女を見つめる。
「きゃぁっ!?」
どれくらいそうしていたのか。
突然目に映る少女が体勢を崩し足を川の流れにもっていかれた。
それを見た瞬間、先程まで動かなかった足が嘘のように、少女目がけ一目散に走りだす。
間一髪のところで少女の体を水の中から引き上げると、歳三はそのまま後ろに倒れこんだ。
その拍子に、近くにあった大きな岩に左腕をぶつけた歳三。
手首から肘にかけて一直線に傷が出来たが、かまうことなく少女を抱える手に力をこめた。
「……あ、危ねぇ」
安心したのか、歳三はほっと息を吐く。
歳三の腕の中にすっぽり納まった少女は驚いたように目を見開いていた。
「おい、大丈夫か?」
歳三は体勢を立て直し、少女の顔を覗き込む。
「あっは、はい!ごめんなさい!」
少女は慌てて頭を下げると、歳三の腕から逃げだし勢いよく走り去った。
「お、おいっ!!」
慌てて声をあげた歳三だが時すでに遅し。
少女の姿はもう見えない。
歳三は呆然と少女の去っていった方を見ていたが、ふと自分の腕の中に居た時に見えた彼女への違和感を思い出した。
「あいつ、傷…」
思い出した違和感に顔を顰めた歳三だったが、今更どうすることも出来ず仕方なしに足を家の方に向かって進める。
一瞬だけ出会った彼女を心の中に思いながら。