紙吹雪
月明かりの無い夜には音もなく、まるで世界にたった二人しかいないような。
そんな錯覚に陥りそうな雰囲気が歳三を包んだ。
「……くろ、ねこ……?」
依然として向けられままの背中に擦れた声で呟けば僅かに震えた物取りの肩。
あぁ…俺はあの後ろ姿を知っている─────…
歳三の目に映る見覚えのある後ろ姿と、一瞬だけ微かに見えた左目下の泣きぼくろ。
そして、怖さなど欠けらも感じずただひたすらに追い掛けたくなった己自身。
全ての感覚が合点した瞬間だった。
だって俺はそんな相手一人しか知らないのだから。
「……か…お……?」
絞りだした精一杯の言葉に再び物取りの肩が揺れる。