紙吹雪
「…かお、なの…か…?」
間違いない、と本能はそれを察していたが、歳三の中にある少しの理性が再び影に名を問い掛けた。
どんな答えを期待しているのか。
それは歳三にもわからない。
きっと何を言われても納得など出来ないのだろう。
それでもただ、振り向いてほしかった。
その思いが通じたのか、震えるように紡がれた歳三の言葉にゆっくりとこちらに振り返る黒い影。
其処に見えたのは紛れもなく昼間に会ったばかりの馨の姿で。
しかし、その瞳はまるで別人のように鋭く歳三を見据えている。
ドクン…ドクン…
昼間と同じように心臓は強くその存在を示す。
違っているのはその原因が愛しさではなく戸惑いだということだけ。
屋根の上に佇その影は黒い服を全身に纏い短剣を二本腰元にぶら下げ、その瞳には柔らかな光を映すことなく、冷酷に真っ直ぐ歳三を見つめていた。