紙吹雪
「お前、名前は?」
鳴り止まぬ鼓動を無視して、少女に問いかける歳三。
質問自体には特別変なところはない。
しかし
「名前…ですか?」
眉をハの字に下げ困ったように笑う少女。
「あ…」
少女の表情に歳三の胸元あたりがチクリと痛んだ。
自慢ではないが、歳三は割と場数を踏んでる方だと思う。
女の扱いも、そこらの男よりは上手い自信がある。
(だから…)
本気でそんな顔されたのは初めてで。
「俺に教えるのは、嫌か?」
しかもそんな顔をしているのが目の前の少女だという事実に、また歳三の柔らかな部分が痛む。
歳三の声色は僅かに震え、それに気付いた少女はバッと顔を上げたが、再び眉を悩ましげに歪め下を向いてしまった。
「やっぱ、無理…?俺、あー…その…名前で呼びたいん、だけど…」
それでも何とか聞き出せないものかと言葉を続ける歳三。
歳三自身、何故そんなに彼女の名を知ろうとしているのかわからなかった。
普段、相手の名前など聞かない自分が何故。
ただ、そう考える頭とは逆に口からは言葉がもれていた。
そんな歳三の言葉を聞いた少女は意を決して顔を上げると一言。
「…名前を知ったら…後悔するかもしれませんよ?」