紙吹雪
「俺は石田村の出だ」
石田村は現・東京都日野市石田辺りを指し、試衛館のある上石原村は現在の東京都調布市付近のことである。
「こっちに親友のいる試衛館っつー道場があってさ。俺は薬売りに来てんだ。んで、たまに手合せしてもらってる」
歳三は川辺に腰をおろすと自分の隣をポンポンと叩いて馨に座るようたくした。
馨はそっと歳三の横に腰をおろす。
本来、百姓は刀を持つべからずというのが世の常。
しかし、この地方一帯は幕府の直轄領なのだ。
故に百姓も嗜みとして剣を学ぶことが許されている。
「商家の方、なんですか?」
「いや?しがない百姓」
つっても一応は豪農って言われるくれぇの家だけど、と歳三は笑う。
馨の質問は当然といえば当然だった。
少なくとも馨の知っている中に副業で薬品の販売をしている百姓はいなかったし、副業をしていたとしても、歳三くらいの年齢なら奉公にでも出ているものだ。
歳三が長男でないのならば、なおのことである。