紙吹雪
冗談めかしてそう言えば、更に怒りを露にする喜六。
しかし哀しいことに、何かと悪さをしては喜六に怒鳴られている歳三は、喜六のそれに慣れてしまっていた。
また怒ってるよ、くらいにしか思っていないようだ。
…そういえばこないだ勝っつぁんと同じようなやりとりしたような…
「お前、一悶着あって奉公先から暇だされたんだから少しは真面目に手伝いくらいしやがれ」
正論を述べ歳三を叱る喜六だが、当の本人にはまったくそれが耳に入っていない。
というより、それを気にしている余裕など今の歳三にはなかった。
歳三の頭の中を支配するのはただ一つ。
先刻まで言葉を交わしていた馨のことだけ。
そのことだけが思考を塞ぎ、喜六の怒声は右から左へと抜けていった。
「だーから、悪かったって!気をつけっから。んじゃ!」
永遠に終わりそうのない喜六の説教を適当に切り上げた歳三は、ふらふらと廊下を進む。