紙吹雪
後ろから喜六の怒鳴り声が聞こえているような気もするが…
……気にしちゃ負けだ!
と決め込んでいる歳三が振り向くことはない。
覚束ない足取りで前に進んでいると、縁側に腰を掛けていた盲目の長男・為二郎の姿が歳三の目に映った。
「歳、帰ったのか」
「あ、為兄。ただいま」
歳三が近づくと振り返り笑う為二郎。
歳三は軽く挨拶をするとその場を通り過ぎようと足を動かす。
その時─…
「…なんだ歳、遂に好きな女でも出来たか」
為二郎の口から聞こえた思わぬ一言に歳三は思わず足を止めた。
「………へ?」
為二郎の方を振り返り、何とか口に出来たのはほとんど声にならない返事だけ。
そんな歳三を尻目に
「何だ違うのか?お前があまりに上機嫌だから、てっきり良いことがあったんだと思ったんだが」
さも当然だといわんばかりに為二郎は笑った。