紙吹雪
《始まりの時》
小鳥のさえずりもまだ届かぬ夜明け。
一人の少女──馨はひたすら前を見つめ走っていた。
追っ手から逃れるように。
後ろから忍び寄る影。
それは少し前に物取りを働いたある店の店主が雇っていたらしい忍達からの襲撃。
思ったより頭の使える男だったようだ。
どっから嗅ぎつけてきたんやろ。
追い掛けてくる影の数は片手以上。
多勢に無勢とはまさにこのことだろう。
まさか居場所を突きとめられるなんて。
…私も甘かったかもしれん。
頭の隅でそんなことを考えながらも足は止まることなく地を蹴り上げる。
互いに速度を落とすことなく駆け抜けるその姿を見たものは誰一人としていない。