紙吹雪
『父さま、母さま…?』
そう呟いた馨の声は、まるで水面を伝う波紋のように広がった。
あの朝に見た二人の亡骸が、馨の脳裏に今も鮮明に焼き付いている。
忘れることなどできない。
その一方で、仕方がないとどこか納得していたのもまた事実。
わかっていたのだ。
これがいつか訪れる未来だと。
立花家はもともと農村に住む水呑百姓の家系であった。
とはいえ、水呑百姓とは肩書きばかりで、実質の生活を賄っていたのは貿易業。
立花の家は頭の良い人間が多く、現場主義だったため医療の知識も豊富だった。
そんな立花家に契機が訪れる。
それは大御所・家康公が征夷大将軍の宣下を受け江戸に幕府を開く数年前(一六0三(慶長八)年以前)。