紙吹雪
来る時とかわらず覚束ない足取りの歳三は、自室に辿り着くまでに何度も体を壁にぶつける。
ほんの僅かな距離を歩いているはずなのに、その間に片手で足りないほど歳三の「いってぇ」という声が聞こえた。
為二郎は可笑しそうに口元を緩めるとポツリと呟く。
「歳の奴、まだまだ青いな」
為二郎は確かに見透かしていた。
歳三自身、まだ気付いていない感情を。
それは歳三が今まで持ち合わせていなかった小さくも大切な気持ち。
「歳は気付いてねぇんだろうな。自分が気持ち隠したり嘘吐いたりする時に声が上擦ってでかくなるの」
先程の歳三を思い浮べる。
うん、今回も例に違わずそうだったな。
「…ったく自分に正直じゃねぇ奴だ」
本当に気付いていないのか、はたまた気付くのを怖がっているのか。
それは歳三自身にしか…いや歳三自身にもわからない。
だが、少なくとも新しい感情を芽生えさせようとしている弟の姿に、為二郎は嬉しそうに顔を綻ばせるのだった。