紙吹雪
《理想と現実》
それは、歳三が十七歳の誕生日を迎えたばかりの頃。
多摩川の畔に淋しそうな背中が一つ。
薬品箱のようなものを隣に置き片手では生えている草をむしっては投げ捨てるという行為を繰り返している。
その容姿は、背丈五尺五寸(約165〜170程)で少々猫背な青年。
そう、彼が後の世に"鬼の副長"と名を残すことになる土方歳三である。
漆黒の髪を後ろで一つにくくり、整った顔立ちは役者のような美男子と称されるに相応しい。
もっとも、今の歳三からはそんな華やかな雰囲気など微塵も感じず、むしろ全身から負の気が漂っているのだが。
そんな歳三の後ろから聞こえてきたのは元気な男の声。
「よぉ歳!こんなとこで何やってんだ?」
「うぉぉ!?勝っつぁん!?」
予想外に聞こえた大きな声に、歳三は身体をびくつかせた。