兎心の宝箱【短編集】
2075年、この年一般向けに発売されたコールドスリープキットは、売れに売れた。
なんせ人がスッポリ入る卵形のその機械は、一人で中に入ってボタンを押すだけで、誰でも簡単にコールドスリープができるのだ。
金額も一般的なサラリーマンの月収程度。
安全性も折り紙付きとなれば買わない手はない。
病気で回復の見込みの無い者。
人生に悲観した若者や若返りを求めて未来へ希望を託す老人。
銀行に五十年、百年の定期預金をして眠りにつく人達。
人々はこぞってコールドスリープの機械を求めた。
それから数世紀程たった頃初めて宇宙人が地球へと降り立った。
移住に適した星を探していた彼らは、緑と水の多い地球へ目を向けたのだ。
「それにしても素晴らしい星だなここは。空気もうまいし水も美味しい」
船長は、傍らの船員に語りかけた。
「ええ、船長本当に素晴らしい星ですね。でもこの大量に転がっている巨大な卵はなんでしょうね?親はいないみたいですし」
「さあな。巨大な宇宙鳥の巣かもしれんから気をつけた方がいいかもな。まあいずれにしても今日の晩御飯は久しぶりに玉子焼きに決まりだな」
そういって船長は、笑みを浮かべるのだった。