兎心の宝箱【短編集】
 目が覚めてから智子(ともこ)は、状況がしばらく理解出来ないでいた。

 何かがおかしい事にはすぐ気付いてはいたのだが、いつも寝ている物よりもの凄くフワフワしている布団の心地よさに、智子は理解を遅らせていた。

 だが微睡み(まどろみ)が晴れるに連れて少しずつ恐怖が歩みよってくる。

「何処ここ?」

 そこは智子が今まで見たことの無い場所だった。

 昨日寝た時と同じ様に和室ではあったが、隣に寝ている筈のお母さんがいない。

 それだけではなく、部屋の中にある家具も智子が見た事のないものばかりだった。

「お母さん何処? 近くにいたら返事して」

 何度か呼びかけてみるが返事がない。

 自分は、何処かに連れ去られたのだろうか? その想像は智子の中でどんどん膨れ挙がってくる。

 凄く暖かい布団に入っているのに震えが止まらない。


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