兎心の宝箱【短編集】
智子は襖を開けると庭の方に出てみた。
そこでは見知らぬ中年の女性が、洗濯物を干していた。
夢中で干しているその姿を見て、話しかけるのは憚られたが、意を決して話し掛けてみる事にした。
「あのう……すいません。私のお母さんはどこにいるかわかりますか?」
母より少し年上だろうか?白髪が混じった頭は、話し掛けると一瞬止まったが、すぐにまた洗濯物を手に取るとこちらを見ずに冷酷に言い放った。
「さあ? 何処かの墓の下に埋まってるんじゃないかしら?」
思考が停止する。
「えっ?」
あまりに端的に……。
あまりに簡単に言い放たれた言葉に、思考が追いつかない。
気が付けば智子は裸足で道を歩いていた。
あの後、何かあの中年の女性と話した気がするがほとんど覚えていない。
ただ、彼女を振り切って家を飛び出したのだけは覚えている。
足の裏が酷く痛む、自分が住んでいた家の近くは、裸足で走り回っても大丈夫だった。
やはり自分は見知らぬ町に連れて来られたのだろう。
こんなに沢山の車も走ってなかった。
「これからどうしよう。お金もないし、ここが何処かも……。お母さん助けて」
涙が止まらない。
どれくらい歩いただろう。
夕闇が当たりを包む頃小さな神社を見つけた。
かなり寂れた神社ではあったが、夏祭りに父と母に連れてこられた神社にどことなくにていた。
神社の片隅に座り、目を閉じる。
母が抱きしめてくれている気がした。