兎心の宝箱【短編集】
何という理不尽。
怒りがこみ上げてくる。
俺は命を掛けて、十年もの月日を魔王討伐の為に捧げてきたのだ。
俺だけじゃない!
俺の仲間の家族にはなんと伝えればいいのだ!
あるものは恋人を捨て、あるものは家族を捨て、世界の平和の為にその命を捧げたというのに。
魔王の最後の言葉が頭に反響する。
「我が倒れた後、お前達が守ってきた物が本当に守るに値する物だったのか良く見てまわると言い。魔王の座がお前を待っているはずだ」
最後の戯れ言。
そう思っていた。
「信ずるにたる証拠か……。この方法しかなさそうだ。見せてやろうか? 魔王を倒した俺の力を!」
魔力が溢れる。
感情が暴走する。
謁見の間にいる魔術師達が、慌てて魔法を詠唱する。
光の玉が俺に向かって飛んでくる。
俺はそれを片手で受け止める、と圧倒的な魔力で握り潰す。
周囲がざわめく。
「どこまで力を見せたら信じる?」
恐怖の渦に巻き込まれた人々は、誰も答えない。
その日、地図の上からアルチーザ王国は消え去った。
そしてまた一人の魔王が生まれた。