兎心の宝箱【短編集】

 悪魔って仕事あるんだ……。

 でも、そんな些細な事に捕らわれている場合ではない。

「あの、殺して欲しい人がいるんです。報酬は……、私の魂です」

 悪魔がこちらを見つめる、端正な顔だちの悪魔だ。

 悪魔でなかったら、違うシチュエーションだったら、頬の一つも染めてたかも知れない。

「止めとけ、止めとけ、今時復讐とか流行らねえよ。それに報酬が魂一個? お前俺のノルマ知ってんのかよ? 年間一万二千人だぜ。無理、無理、もう全然無理だね」

 一万二千人って、悪魔にノルマがあるとは思わなかった。

 だが、引き下がる訳にはいかない。

 もう悪魔呼んじゃったし。

「で、でもこの本には魂と引き換えに、願いを一つ叶えるって」

 悪魔は、溜め息を一つ吐くと、ヒョイッと本を私から取り上げペラペラと捲る。

 この本は、とあるルートで高額の代金を払って手に入れた代物だ。

 悪魔が本当にでてきた瞬間は一瞬喜んだが、このままでは意味がない。

「お前なぁ、ここに初版が西暦320年って書いてるだろ?1700年も前と制度が同じ訳が無いだろう?」

 何で私は、悪魔に説教されているんだろ。

 もう訳が分からない。

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