兎心の宝箱【短編集】
闘技場から控え室に戻る通路を一人トボトボと歩く。
「アキヒトさん、お疲れ様でした。見事な戦い振りでしたよ」
聞こえてきた声に顔を上げると、
腕をくんだ一匹のシロネコが、通路に寄りかかってこちらを見つめていた。
「シロ。君も来てたのか?」
先が欠けた特徴的な耳が揺れている。
「えぇ、私も二回戦で負けましたが」
「そうか……。シロ、あれで良かったのかな?」
シロは、いつもするようにペロペロと腕の毛繕いをしながら答えた。
「いいんじゃないですか? あのまま続けて決勝でアキヒトさんが倒れたら、明日から私はご飯が食べれなくなりますし」
「酷く自分本位な答えを返すんだね。シロは」
「ネコですから……。でもみんなそんなもんですよ。さっ! 帰りましょ。我が家へ」