兎心の宝箱【短編集】
 近所のスーパーに寄って帰る。

 高校生になってからは、働いている母親に変わって食事を作るのが、奈央の日課となっている。

 家に着き、お米を炊飯器にセットして、今日のメインである豚カツを揚げていると兄が帰ってきた。

「おっ! 今日は豚カツかぁ? 腹減ったぁ」

「帰ってくるなりご飯? ただいまぐらい言ってよね。あっそれと靴下はちゃんと洗濯機に入れてよ」

 ついつい声を荒げる奈央に兄は、ハイハイと応じる。

 洗濯機から戻ってきた兄は、今朝多めに作っておいた煮物を指でつまみながら、話し掛けてきた。

「さっき少しだけ練習見に来てたよなー? 守(まもる)の奴が奈央ちゃんに勇姿を見せたかったぁって悶えてたぞ」

 守は高科先輩の下の名前だ。

 本当かどうだか分からないが、高科先輩は私に気があるらしく、何かに付けて兄は高科先輩の話をする。

「高科先輩だったら私より可愛い女の子がちゃんと勇姿を見てますよぅだ。それよりご飯ができたわよ」

 たった二人の夕食。

 父と母は、今日も遅くなるようだ。

「明日は、試合だよね? お弁当何がいい?」

 勢いよくご飯を掻き込んでた兄は、米粒を飛ばしながら返答する。

「いつも通りオニギリでいいよ! おかずは適当で。オニギリだけは愛情が込もってて天下一品だからな」

「何よそれ? 料理が下手って言いたいんでしょ? 誰がバカ兄貴に愛情なんか込めますか!」

 ガチャッ!

 いつも通りの軽い口喧嘩をしてると、玄関からドアが開く音が聞こえてきた。

 そしていつも通り食事を終え、いつも通り家族でドラマを見て、いつも通りお風呂に入り、いつも通り床についた。


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