兎心の宝箱【短編集】
 その日、俺はいつもより遅く学校についた。

 教室が見える場所まで来ると、入口に人だかりがあるのが見える。

 何かあったのか?

 少し嫌な予感がして急いで教室に向かう。

「どいて!」

 突然人混みを押しのけて有坂がこちらに走ってくる。
 彼女はこちらに気づくと一瞬躊躇して、顔を伏せ横を通り過ぎようとする。

「どうかしたのか?」

 思わず有坂の左手を掴んでしまった。

 左手は驚く程冷たかった。

 彼女は泣いていた。

「嫌!」

 俺の手を振り払った有坂は、そのまま走りさった。


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