兎心の宝箱【短編集】
「和也! 彼女はどこに行った?」
宮村が人混みを掻き分けて、こちらに走ってくる。
「何がどうしたんだ? 何で彼女は泣いている?」
宮村は、説明するのももどかしいように俺の腕を取り上げ教室に連れて行った。
「何だこれ?」
「俺が来た時には書かれていた、急いで消している途中で彼女が来た」
半分程は宮村が消した後が残っていたが、黒板全体に書かれていたのだろう。
残り半分には、有坂に対する唾棄すべき誹謗中傷が残っていた。
ご丁寧に彼女の机には、花瓶まで置かれている。
「誰が……こんな?」
「分かったらサッサと探しにいけ! 今一人にしたら危ない!」
宮村が叫ぶ。
弾かれるように俺は教室を飛び出していた。