兎心の宝箱【短編集】
廊下で会う人に、走ってきた女子がどっちに行ったか聞きながら追いかけた。
途中、教師に止められたが振り切って走った。
そして、ホームルームが始まる頃、俺は屋上への扉を開いていた。
有坂の華奢な背中が見える。
取り敢えず、彼女の無事な姿に胸をなで下ろす。
「まったく。飛び降りてるかと心配したぞ」
「うん。やっぱり私は幸せだ! 黒瀬君が追いかけて来てくれたんだもん!」
そう言って振り返った彼女は、少し赤い目をしていたが、いつもの笑みを浮かべていた。
「バカかお前は? たまには思いっきり泣いてもいいんだぞ。っていうか何でお前はこんな時まで笑っていられるんだ?」
有坂が無事だった安堵と共に、彼女のタフさに少し呆れた。