兎心の宝箱【短編集】

「それからかな? いつも笑うようになったのは。お金があっても不幸せな人はいっぱいいるし、格好いい彼氏がいても不幸せな人もいる。なら幸せって結局気の持ちようじゃない?」

 そこで、一息ついてから彼女は続ける。

 涙は止まり、彼女の顔には満面の笑みがこぼれている。

「ならさ、私は幸せだから笑うの。どんなにつらい事があっても、どんなに悲しい事があっても、どんなに運が悪くても私は……有坂鈴は笑ってみせる。だから私は世界一幸せなんだ!」

 それが彼女の決意。

 それが彼女の……有坂鈴の生き様なのだろう。

 少し恥ずかしくなったのか、有坂は目をそらしながら言葉を紡ぐ。

「つまんない事聞かせちゃったね。もう大丈夫、心配かけてごめんね。教室にもどろっか? あっ……黒瀬君にも迷惑掛けるから、友達付き合いも考えなきゃね」

 少し影のある笑いを浮かべながら、彼女が呟く。

 ──勝手な事を。

「あぁ友達は、おしまいだ。」

「そうだよね。うんしようがないよ」

 彼女は、笑みを崩さない。
< 59 / 416 >

この作品をシェア

pagetop